ゲームアプリのUIデザイン

プレイしたゲームアプリのUIデザインに関して書き残します。毎日頑張って更新!

「サクラ革命」メリットが多いはずなのにユーザーから問い合わせが多かったランクアップ時のAPの振る舞いについて

こんにちは、ちょこです!

 

 

今回はグラフィック寄りのUIではなく、サービス寄りのUIの話です。

 

「サクラ革命」のランクアップ時のAPの振る舞いについてです。

 

リリース当時「サクラ革命」は主人公(司令)のランクが上がってもAPが回復せず、代わりにAP回復薬が手に入る実装になっていました。

これについてユーザーから問い合わせが多くあったため、2020/12/25(金)にゲーム内調整が入り、APが回復する実装に変わりました。

 

以下はお知らせ内のプロデューサー&ディレクターレターです。

サクラ革命のお知らせ画面です。司令ランクが上がってもAPが回復しないことについて書かれている部分を抜き出しました

 

プロデューサー&ディレクターレター|サクラ革命 ~華咲く乙女たち~(サクラ革命)公式サイト|セガ×ディライトワークス

 

司令ランクが上がってもAPが回復しない…!につきまして

司令のランクが上がると、APの上限が上がり、ランクアップ報酬として「蒸気燃料(大)」(100%分のAPを回復)が入手できます。
わかりづらく申し訳ございませんが、回復上限を超えてしまった場合にAPの自然回復分が無駄にならないように実装した仕様です。集中して遊びたいときなどにご活用ください。
こちらもよりわかりやすくなるように改修したいと思っております。

 

 

 

 

以下が司令ランクアップ時のAP回復についての挙動を変更した後のお知らせ文です。

サクラ革命のお知らせ画面です。司令ランクがあがった際のAPを回復するように実装を変更する旨が書かれています

 

第2回 プロデューサー&ディレクターレター|サクラ革命 ~華咲く乙女たち~(サクラ革命)公式サイト|セガ×ディライトワークス

 

▼司令ランクUP時にAP全回復を追加(蒸気燃料(大)の獲得はそのまま)
(12/25 0:00~実施)

 

①司令ランクアップ時のAP回復システムを実装します。

  • 司令ランクアップ時、自動でAPが全快するシステムを実装いたします。

②AP回復アイテム(蒸気燃料(大))は現状通り入手できる状態とします。

  • 現状と同様、AP回復アイテム(蒸気燃料(大))は獲得できます。

こちらも多数ご意見お寄せいただいていた項目になります。
司令ランクの上昇時、AP全回復を自動で行うよう修正を行います。

 

 

 

確かに、任意のタイミングでAPを回復できる方がメリットがあります。
しかし、なぜユーザーから問い合わせが寄せられたのか、その理由を推測してみました。

 

思いつく理由としては以下の6つです。

  1. ランクアップしたらAPが回復するというメンタルモデルがユーザー内に構築されている
  2. ダイアログを表示していたが、内容を理解していないか見ていない
  3. アイテムのグラフィックが回復薬らしくなく、直感的に理解できない
  4. アイテムを使おうとした際に、複数の選択肢があり、判断するコストがかかる
  5. APが回復しないことでゲームを中断する理由になり、ゲームへの没入感の低下、テンポが悪くなる
  6. 貴重なアイテムを使うことに対する抵抗感

 

ひとつずつ補足します。

 

 

1:ランクアップしたらAPが回復するというメンタルモデルがユーザー内に構築されている

 

多くのアプリはプレイヤーのランクがレベルアップしたらスタミナなり、何かしらリソースが回復します。

余剰を切り捨てるか、加算するかはゲームによりけりですが、最近だと加算し続けるゲームが多いように感じます。

 

そういったゲームを多くプレイしているユーザーからは「ランクアップ=スタミナが回復する」というメンタルモデルが構築されています

 

メンタルモデルと一致しないと再度学習しなければならず、場合によっては強いストレスになります。

その結果、APが回復しないことについて、不満に感じたユーザーがいたのかと推測します。

 

 

2:ダイアログを表示していたが、ユーザーは内容を理解していないか見ていない

「サクラ革命」の開発者はユーザー対して「APが全回復するアイテムを配布した」旨のメッセージを表示しています。

司令官ランクアップ時に配布される報酬を獲得した旨を通知するポップアップです



 

しかし、ユーザーはメッセージを読む前に、読むか読まないかの判断をしています。

 

これはいわゆる「システム1」と呼ばれているものです。

「システム1」で「読む」と判断した場合、「システム2」によってメッセージが読まれる、という流れです。

 

ですので、読んでもらうためにはまず「システム1」に働きかける必要があります。

結果的に、そこの働きかけが不十分なデザインだったのかもしれません。

 

 

3:アイテムのグラフィックが回復薬らしくなく、直感的に理解できない

 

「システム1」が「読む」と判断してもらうための手段の一つとして、視覚的な訴求があります。

 

「サクラ革命」のAP回復薬のグラフィックは電池のようなデザインです。

APを回復するアイテムがリスト表示されている画面です

 

 

大きく表示するとこちらです。

回復アイテムのリストを拡大表示しました。アイテムの名前は蒸気燃料となっています。アイテムの見た目も電池やバッテリーのようです

 

 

「蒸気燃料」という名前になっており、バッテリーのような見た目です。

先入観や事前知識が少ない状態でこのグラフィックを見た場合、

 

「このアイコンはAPを回復するアイテムである」

 

と直感的に読み取ることはかなり難しいと思います。メンタルモデルが作用しません。

 

その結果「システム1」はAP回復薬が認識できず、回復薬を配布していることを伝えるメッセージを読み飛ばしてしまったのかもしれません。

 

「システム1」で判断しても「このアイコンはAP回復薬だ!」と理解されやすいデザインであると良かったのかもしれません。

 

 

4:アイテムを使おうとした際に、複数の選択肢があり、判断するコストがかかる

「サクラ革命」には回復薬の種類が複数あります。

回復薬が複数あることにより、ユーザーに判断させる機会が増え、それが煩雑さに繋がった可能性も考えられます。

特に「APを10回復する」と「APを全回復する」が混雑していることで、ユーザーはより複雑な判断をしなければなりません。

 

 

5:APが回復しないことでゲームを中断する理由になり、ゲームへの没入感の低下、テンポが悪くなる

スタミナが無くなることによって、クエストが周回できなくなります。

そこでユーザーは…

  • アイテムを使用する
  • 時間経過を待つ

の2択を選ぶ必要があります。

アイテムは今のところ入手手段が限られている為、ユーザーは時間経過を選択し、ゲームから離脱する機会が生まれます。

その結果…

  • ゲームの没入感が低下する
  • 遊びたいのにテンポよく遊べない

…といったデメリットが考えられます。

 

 

6:貴重なアイテムを使うことに対する抵抗感

 

心理学的には「保有効果」に近いものがあるかもしれません。

 

swingroot.com

保有効果(Endowment effect)とは、自分が所有しているモノに高い価値を感じて、それを手放すことに抵抗を感じてしまう心理現象です。

 

ラストエリクサー最後まで使えない」みたいなアレですね。 

 

2020/12/25時点だと回復薬を入手する手段は限られています。
ですので、ユーザーは回復薬の使用に関しては慎重に判断する必要があります。

 

以上。

改めてユーザーが不満に感じた理由を整理すると…

  1. ランクアップしたらAPが回復するというメンタルモデルがユーザー内に構築されている
  2. ダイアログを表示していたが、内容を理解していないか見ていない
  3. アイテムのグラフィックが回復薬らしくなく、直感的に理解できない
  4. アイテムを使おうとした際に、複数の選択肢があり、判断するコストがかかる
  5. APが回復しないことでゲームを中断する理由になり、ゲームへの没入感の低下、テンポが悪くなる
  6. 貴重なアイテムを使うことに対する抵抗感

 

など、いくつかの理由が考えられました。

 

 

回復薬のグラフィックなどビジュアル面で改善できる部分もありますが、概ねの理由は

 

開発が想定したユーザーの行動と、実際のユーザーの行動の差異が生まれた結果

 

と括ることができるのかな、と思います。
これについての対策としては、ユーザーテストが考えられます。

 

社内でテストプレイを行えば「APは回復しないの?」といった意見はあがったのかな、と思います。

仮にそういった意見があり、それに対して「回復薬を配布する方がユーザーに対してメリットがある」といった回答をしていたのであれば、難しい話だなと思います。

 

確かに強制的にAPを回復することによって…

  • 遊べないタイミングでAPが溢れてAPを無駄にしてしまう
  • APが上限値を超えていた場合はAP回復のタイマーが動作しいため、上限を上回った分を使用するまでの時間が無駄になる

などのデメリットがあり、それらは回復薬を配布することで解決します。

機能として利便性は高まっているが、ユーザーが使いづらいと判断するケースは難しい話です…。

 

これについてはユーザーテストの結果を真摯に受け取り「何が不満なのか」「なぜ不満に感じたのか」ということをよく考える必要があります。

 

利便性を高めることが、必ずしもユーザビリティに繋がらない、という非常に稀有な例でした。

ユーザーテストを評価、検討する際の参考になれば幸いです。